安田東鶴画 絵馬展

安田東鶴画 絵馬展

我が家の近所にある法楽寺から、絵馬を描くよう頼まれたのが平成17年の酉年、それから毎年干支を描き、昨年の申年でちょうど一回り致しました。
これで一区切りついた事になりますので、お役目も終わるのか、はたまた更に描くことになるのか、そうなれば途中でやめるわけにはいかないので、もう12年描く事になるなぁと思っておりましたところ、昨年10月ごろ小松庸祐住職より、「干支が一回りした事を記念して、年明け早々にこれまで描かれたものをリーブスギャラリー『小坂奇石記念館』で一度に飾って絵馬展をやりたいと思います。来年の酉の絵馬と併せ、お参りに来られる方には13点を一度にご覧頂く事になりますのでどうぞよろしく…」というお話を頂きました。ポスターやチラシ、小さな作品集もすべてお寺が作って下さり、本堂西側に在る小坂奇石先生の記念館で開催して下さるという誠にありがたいお話で感謝の気持ちでいっぱいになりましたが、同時にこれでもう一回り干支を描く事になったな!と覚悟も決まりました。

ここで法楽寺について簡単にご紹介したいと思います。法楽寺は山号を紫金山、院号を小松院と号するお寺で、皇室ゆかりのお寺として知られる真言宗泉涌寺派の大本山です。現在、近畿三十六不動尊霊場第三番ならびに大阪十三佛霊場会第一番、役行者霊蹟札所、神仏霊場(大阪/第六番)ともなっており、昔に言うところの摂津国田辺、現在の大阪市東住吉区山坂に位置しています。学生の頃に読売新聞の第一面に載ったので、私もよく覚えているのですが、昭和53年秋、法楽寺の蔵から偶然不動明王図像が発見され、学術調査の結果、「天下の三不動」の一つ京都青連院の国宝「青不動」の原画と判明、日本仏教美術における第一級の名品であることがわかりました。
また平成八年には新しく三重塔が建立され、11月26日の落慶法要には、昨年百歳で薨去された三笠宮崇仁親王殿下ならびに同妃殿下がご臨席され、厳粛にとり行われました。
書道とも関係が深く、江戸中期の大阪を中心として活躍した仏教僧慈雲尊者が一時法楽寺の住職を務め、その力強い書やゆかりの品が収蔵されており、平成16年に大阪市立美術館で『心の書 慈雲尊者』展が開催された事をご記憶の方も多いかと思います。
それと昭和の日本書壇に一時代を築かれた小坂奇石先生とも大変かかわりの深いお寺でもあります。ちょうど廣津雲仙先生と同時代に活躍され(小坂先生は明治34年徳島県生まれ、雲仙先生は明治43年長崎県生まれ)、今の日本の書道界の礎を築かれた偉大な書家のお一人で、法楽寺には小坂奇石先生の作品が400余点所蔵され、毎年11月中旬~12月初旬に、大阪市立美術館で開催される璞社展に合わせて『小坂奇石展』が開催されています。

以上が法楽寺についての簡単なご紹介ですが、安田家はその法楽寺の檀家になっており毎月お参りに来て頂いております。私の祖母と母は大変信仰心が強く、お寺にもいろいろお世話になっていましたので、絵馬を描くというのもそのご縁のお陰と感謝しております。
会場のリーブスギャラリー『小坂奇石記念館』ですが、本堂西側に建てられた近代的な建築物で、入り口すぐのところに小坂先生の書が常設で数点展示されています。奥に入っていくと円形のホールになっており、そこに絵馬12点が飾られていました。ちょうど12作品がうまく収まる壁面で、この為に建てられたのかと思う程ぴったりと収まっておりました。いつもは三重塔の右側にアクリルの入った木製額に入って飾られ、多くの参拝者をお迎えするという感じですが、会場内の作品にアクリルはなく、じかに手で触れるほどの至近距離からじっくり観ることができました。自分自身の感想としては、一度に飾られたことで、13年前の酉から年月を経る度に、目の表現や毛並みの用筆が少しずつ上達してきたかと思いますし、それぞれの作品に、もっとこうすれば良かったかと反省したり、こんなに丁寧に描いていたかと驚いたり、あの時はあんな事を想いながら書いたなぁという懐かしさが蘇ったり致しました。事実、この12年間で、いろいろな事がありました。結婚し、母が亡くなり、子供が2人生まれと人生の大きな山がそこにあり、また仮名の師匠である小山素洞先生がお亡くなりになり、このたびは大重先生が…と、仏教に「無常」という言葉がありますが、本当に常は無い、永久に不変な事はないと感じる今日この頃です。

新年という事もあり、来場者は千人を超えたとお聞きしました。自分の干支の前で写真を撮る方も多くいたという事で、一人でも多くの方に喜んでもらえて良かったと思います。私自身が不在の時が多く、せっかく来て頂いてもお会いできずに失礼した方も多かったですが、この場をお借りして御礼とお詫びを申し上げます。特に遠い秋田から来て下さいました長谷川長龍先生には重ねて御礼申し上げます。

この法楽寺に加えて、墨滴会の前田圭玉先生にお世話になり、兵庫県高砂市にある曽根天満宮という神社にも、3年に一度というペースで、大絵馬を奉納させて頂いております。本当に有難いことで、神様や仏様、そして周りの方に感謝の気持ちを込めて、更にここから12年頑張って描いていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。(安田東鶴)


Comments are Disabled